第1回近山住宅コンテスト結果発表

コンテスト概評


 今回のコンテストは大変短い応募期間にもかかわらず、17点の応募をいただいた。応募作品のレベルは高く、約4分の3の作品は、どれをとっても視点を変えれば入選の可能性のあるものであった。

 匿名で行った審査は、先ず5人の審査員の票で多くを集めた作品5点を選び、(その内3点は同数票であった。)この5点を現地審査により入選を決めた。その結果、「玄関土間のある住まい」、「里山の家」、「土間と薪ストーブの家」が受賞と決まった。順位はつけていない。

 各作品の評価の詳細は、後の発表会に譲ることとし、ここではその概略を記して報告としたい。審査に当たってのポイントは、主として近くの山の木(国産材)を積極的に利用し、質の高い木造住宅(もちろん構造を含めて)を、住み手が十分納得できる価格で如何に造るかということであった。

「玄関土間のある住まい」 村上圭吾 持井工務店


 地域工務店の設計施工による一見すると普通の家である。大黒柱の丸太を中心とした田の字型の構造組みで、バランスの良いシンプルな架構の中に、住み心地と使い勝手の良さそうな空間が造られている。そのさり気なさ、自然さ、普通な感じが住宅のスタンダードとしての共感を呼んだのであろうか、多くの票を集めた。規模も適切でコストも安い。
 実物を拝見すると、このシンプルな架構、おおらかな空間だけでなく、厨房、ユーティリティーへと続く玄関土間、洗面洗濯の作業スペースにつながるクローゼット、厨房の脇の食事のための小スペース、床を落として腰掛けられるロフトの書斎コーナーと、小さなスペースの設計の工夫も光っている。夫婦2人の生活のための家と割りきって、ロフトを適度な高さに押さえ、コスト削減を計ると同時に、高すぎずバランスのよい吹抜けをつくっている。ロフトも屋根裏部屋の面白さが増している。

 この家の良さは、先ず設計がきちんとなされていることである。内外の二重の通気層、蓄熱型の床暖房を採用している温熱環境についても云えることである。針葉樹、広葉樹を取り混ぜた木材の自在な使用は羨ましい限りである。これも工務店の設計施工ならではのことである。手刻みの構造、造作の仕上げの良さも目を見張らせるものがある。多くの大工を社員として抱えているからこそできることであろう。

 しかし、このように設計から施工までを一貫した体制で質の高い木造住宅を造るには、常に進取の目配りをし、全体を厳しく見る目と、全員が活き活きと楽しく仕事をする会社の環境が作られていることが必要であろう。自社の造る標準的住宅の質(スタンダード)をきちんと定め、それを全員が共有して、造り重ねる中で、さらに質を高めている工務店としての努力がこの住宅には見て取れる。

 “普通の家”では一朝一夕には出来ないのである。工務店が住宅を造るということの模範的な例といえよう。良質な木造住宅を手頃な価格で手に入れられるという希望につながる家造りである。

「里山の家」 高橋昌巳 (株)シティ環境建築設計


 外から見ても内に入っても、美しい建物である。細長く伸びた主屋と、そこから手を伸ばすように突き出た付属屋が、高低差のある敷地の小山に向かう構成が巧みである。長い主屋の一部は地に附いているが、主要部分はその小山と視線を合わせて浮かせてある。そのため、構造は柱、束を下に長く伸ばした石端立てである。(ただし足固めが、地中の基礎盤と長いボルトで緊結されている。)内部の細長い空間は、小部屋、階段、廊下などで分節化され、それらが高低差をもってつながり、目線の変化が楽しい。

 ここまでは、建て主の高い美意識と、それに応える設計者としての力量があればできる。(これも大したものだが)しかし、この建物の素材のすばらしさ、それを加工し組み立てた職人の技術の高さは格別である。それには、小舞土壁という今では一般的には手の届かない仕上げも含まれる。この材料の良さ、作り手の心意気と職人技の光る贅沢な住宅が、思いの外安くできているのである。その理由は、建て主が様々の職人に工事を直に発注し、それを設計者が補佐する直営方式が成功しているからであろう。

 設計者の高橋氏は、20年余の長きにわたり、この方式で住宅を造り続けている。(因みに付き合っている職人は200人余になるという。)この設計者と職人が共に造る経験の積み重ねが、この質の高さと、その割には安い家造りを可能にしているのである。この家では、施主も竹小舞かき、土壁塗りに参加し、外壁の焼き板をつくり小物家具も造ったという。家に対する満足度も殊更のようであった。

 設計者と職人がこのように手を組み、切磋琢磨しながらの家造りは、木造住宅の造り方に大きな示唆を与えるものではないか。この点でも、「里山の家」は高く評価された。


「土間と薪ストーブのある家」 永添一彦 永添一級建築士事務所


 梁通し伝統工法で建てられた手頃な規模のすっきりした住宅である。構造の評価も高かった。設計者は、このような住宅は2作目であるというが、空間を成立させる構造と施主の希望を十分に盛り込んだ空間がしっくいと調和している。伝統工法の住宅にありがちな構造が目立ち過ぎる違和感はない。

 この家の中心は土間である。そこに薪ストーブが置かれ、厨房もある。図面で見た限りでは、居間から下駄をはいて厨房に行かねばならないこのプランに首をかしげざるを得なかった。しかし、現地で建て主の説明を聞いて納得できた。建て主は農家の出身で、土間中心の生活に幼い頃から馴染んでいた。むしろ、土間で豪快に料理をしたり、ここをダイナミックな生活の中心とすることが夢のように見受けられた。

 これは、これからの家の在り方として、もっと考えられて良い大事なことだと思う。かつての民家では、多くの生産と消費が家で行われ、湯気のでるような活気のある生活の中心は、この土間であったのだから。

 2階の空間は、1階に比べると何か取りとめがない。家族が増えてから使い方が定まる余白の空間だからであろう。しかし、先ず丈夫な構造組みで融通むげに使える空間を造ることは、長持ちする住家を作る要点であろう。これを手堅く実現しているところが評価された。

 家の造り方は、設計者の設計したものを工務店が造るというオーソドックスな造り方である。地域材の手配と入手、このような木組み構法による施工に、工務店もよく対応されたと思う。設計者と施工者が優れた家を造ろうという理念を共有して、緊密な連携と持続的な関係を保つことによって、質の高い木造住宅を手の届く価格で供給することに一層の努力をされることを、この若い設計者と工務店のチームに期待したい。

その他の作品について


 「ドミノハウス」は、都のコンペティションの当選案であり、現在多数が建設済み、又は建設中である。今回は、合板の多用等コンテストの主旨に合わない点もあり受賞にはもれたが、設計者、工務店、職人の作業と材料の在り方の徹底した洗い直しによって、新しいコンセプトで質の高い、自由度の高い住宅を、あのようなコストで実現したことは画期的なことと評価が高く最終審査まで残った。

 「日の出町の家」も最終審査まで残った。建て主と製材所まで出かけて木材を調達する地元材への熱意と努力と、建て主の要望を丁寧に実現した設計は高く評価された。しかし、構造組みをもう少しすっきりできなかったか等の批評もあった。

 「梁の見える板倉づくりの家」は、地元の山、製材所との連携、伝統的構造組みによる設計の手腕、出来上がった建物の質等、近くの山の木の家造りの思想を見事に実現した家造りであるが、余りにも大きな特殊な家であるために選からもれた。代々住み継がれるべき農家の家としては、これは決して特殊なものではないのかもしれないが。

 「さくら市の家」(現代民家、素足の家)は、地域工務店が大工の板図のみで造った家である。通し柱の位置、吹抜けの構造的配慮等、構造的弱点の指摘があったが、無垢の地元材をたっぷり使い手刻みで造っているにもかかわらず、極めて安いコストの木造住宅を実現している。本物の木造住宅を地域で造る可能性を拓く仕事のように思える。設計の質を上げる努力と合わせて今後の健闘を祈りたい。

2008年3月20日
文責 長谷川 敬


応募者一覧


五十音順、敬称略                 
氏名 所属 作品名
秋葉圭史秋葉アトリエ鍛冶屋の家
伊藤寛伊藤アトリエ立川の家
植田寛子清水工務店展覧山の家
小川えつこトモエ設計れきみちの家
小川和夫セルフビルドの八ヶ岳の家
佐々木隆夫(株)フィネス本島邸
白川葉子白川一級建築事務所鳥が丘の家
高島ゆかりアトリエ結三島の家
高島ゆかりアトリエ結日の出町の家
高橋昌巳(株)シティ環境建築設計里山の家
永添一彦永添一級建築士事務所土間と薪ストーブのある家
波多野卓株式会社 愛川森林ハウス梁の見える板倉づくりの家
原田勉カラビナ一級建築士事務所牛込神楽坂の家
半田雅俊半田設計事務所木造ドミノ住宅
前沢昌弘けんちく屋前長佐倉市の家
村上圭吾持井工務店玄関土間のある住まい
山本剛久(有)大兵工務店久部の家


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