近山スクール東京ニュースNo23

2009年7月1日 近山スクール東京
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共催:芝浦工大オープンテクノカレッジ

2009年アドバンスト・コース 第1回
「木造住宅に求められる構造設計」の報告



山辺豊彦氏

講師  山辺豊彦(山辺構造設計事務所代表)

 今年から始まった実務者向けコースの第1回目は「木造住宅に求められる構造設計」というテーマで、ゼミナール形式で行なわれました。(2009年6月13日)

◆ 木構造の設計実務の急所

 今年4月に出版された「ヤマベの木構造」をテキストに講義を進めていただきました。木造の上部構造だけでなく、地盤や基礎についても詳しく取り上げられていて、基礎知識から地震等による実際の被害の考察、具体的な設計手法、構造設計に必要な関連資料・データ、さらには様々な設計条件に対応するスパン表や、柱頭柱脚のN値計算の早見表など、これ1冊で木造住宅の実務がカバーできるほどの内容でした。講義はテキストに沿って進められ、実務上の注意すべきポイントを重点的に解説していただきました。盛りだくさんの内容で、テキスト一冊すべてを講義していただくことはかないませんでしたが、続きの講義を開催したいと現在調整中です。

◆ 設計図書の充実が最優先される時代

 鉄筋コンクリート造や鉄骨造など一般建築の耐震基準の1大ポイントは1981年の新耐震設計法が挙げられる一方、木造住宅の耐震基準は2000年の基準法改正が転換点だというお話がありました。以降、耐震偽装問題などもあり、個々人の判断に任せていた部分を極力排除しようといった流れにあり、構造に関する判定条件の厳格化が進んでいます。その一方で、住宅瑕疵担保履行法による地盤調査や、プレカットの普及により、構造的判断に各々の業者が関与しているのが現状です。こういった状況にあって、設計者は多くの知見と的確な判断で、一貫性のある設計活動を行わなければならないということでした。

* * * お知らせ * * *

 今回終わらなかったテキストの内容につきましては、10月ころに続編の講座を開催する予定です。現在のところ詳細は未定ですが、決まり次第ご連絡致します。なお、今回受講された方については受講料の割引をする予定ですので、是非またご参加ください。

 今回使用したテキストはエクスナレッジから発売中の「ヤマベの木構造」です。本講座は山辺先生からの解説を直接聞けるまたとない機会ですから、前回参加されていない方も、次回は是非受講されてみてはいかがでしょうか。



第6講座「これからの木造住宅をどうつくるのか」の報告

 2008年近山スクール東京の最終回、第6回講座は「これからの木造住宅をどうつくるのか」とういテーマで行われました(3月7日)。遅くなりましたがご報告します。

高橋さんの写真
高橋昌巳氏
◆ 職人チームと取り組む直営方式
講師 高橋昌巳(シティ環境建築設計代表取締役)

 高橋さんは、ご自身の設計事務所を開設したとき以来20年以上にわたり、建主が個々の職人や業者と直接契約して家づくりを進める「分離発注直営方式」という方法にこだわり続け、工務店を通さない家づくりを実現してこられました。

 高橋さんがこのような家づくりを続けてこられたのには、建主のかかわり方までも含めた現状の家づくりのありかたに対する疑問と、家づくりはかくあるべきだという強い思いがあったからでしょう。

 本講座の中で高橋さんが挙げげられた家づくりの要点は次のようなものでした。

  1. 見えるようにすること。まずもっとも明らかにしなければいけないのはお金の流れです。またそのお金は誰が受け取るのかということで職人の顔が見えないといけません。そのほかには工程や材料の品質を挙げられました。材料の品質について明らかにすることは、実はそう簡単な事ではないそうです。
  2. 言えるようにすること。どういう材料を使いたいか指定したり、職人と直接話すことが重要です。建主との間でも限られた資金の優先順位をきちん言い合うことが大切なのです。
  3. 公平に責任を負担すること。高橋さん自身この業界に長く身を置いてみて、建主と設計者は家づくりの責任に対して比較的安全地帯にいて、フェアでないと感じているそうです。
  4. もっと時間と手間をかけられるようにすること。お金がなくても時間と手間を惜しまなければ結果としてよいものができるということです。
  5. 建主、設計者、作り手が同じ目標に向かって進むこと。建主の直営方式ですから、最終的には建主が責任を負うということを理解してもらえないと不可能です。その代わりすべてを明らかにしているし、何でも言えるようにしています。
  6. いろいろな人を巻き込み経験を広げていくこと。自分の所だけで抱え込まず、オープンに広げていくことです。

 この話を聞いて感じたことは、建主がもっと家づくりに関心をもち、責任をもって人任せではない家づくりをすることが、その家づくりにかかわる大工や職人などすべての人がそれぞれの仕事に満足することにつながり、さらにその結果として価値の高い住宅を後世に残すことになるのではないかということです。

 住宅については、量的な供給に対する需要が一段落し、これからは質や価値というものをいかに担保してゆくかが問われてくる時代です。お金で評価することしかできない価値だけでなく、プラスアルファの価値をどう提供してゆくか、これからの建築家には意匠面だけでなく、こうしたプロセスをデザインすることも、求められてくるのではないでしょうか。

 建主による直営方式というのは、まさに建主が主役の家づくりですが、一昔前はごく当たり前の家づくりのかたちでした。特に新しい方式ではないからこそ、正統で強い力があるように思いました。

 この後、会場からは分離発注方式の際の住宅ローンの扱いや坪単価などに関する具体的な質問が上がり、関心の高さが伺えました。




村上さんの写真
村上圭吾氏
◆ 手仕事で真価を発揮する地域工務店
講師 持井貞城村上圭吾 (持井工務店)

 なぜ、近山スクール東京が持井工務店に注目したのか。ことのきっかけは、持井工務店の設計者である村上さんが、2007年の近山スクールを受講をされ、その後に企画された住宅コンテストに応募されたことでした。そのときの応募作品が入賞し、作品にも注目が集まったのですが、審査員が審査のために持井工務店を訪れて話を訊いた時に、この時勢に大工を常用している工務店であるということがわかり、また木を山から買ってきて余すところなく使い、手仕事を大切にするという彼らの家づくりに対する姿勢にとても共感したからなのです。

 講座の中で村上さんが云われたように、上棟のあいさつで近隣の方を訪問すると、「どこのハウスメーカーの方ですか」とか、「どこの下請けですか」などといわれることが増え、工務店が実際に家をつくる(施工する)というイメージが薄くなっている中で、持井工務店では大工を19人も常用して、仕事も車で1時間以内の仕事を中心に引き受けているということでした。

 代表の持井さんは、ある時は工務店の社長さん、ある時は設計事務所の所長さん、そしてある時は材木屋のオヤジさんなど、3つの仕事を一緒にやっておられます。

  1. 「工務店として」 19人の大工さんを常用しています。常用を始めたのは平成に入ってからです。その当時一番若い社員が38歳でしたが、高齢化した会社には先がないと考えて、大工の養成を始めました。大工見習いを採用し、棟梁を頭に若い衆と見習いも入れて4人から5人のグループを作り、そのグループが1棟の家をすべてつくります。早い人では6年で棟梁になった大工もいるそうです。
  2. 「設計者として」 持井さんは資格がなければいつまでも下請けに甘んじなければならないと思い、自ら一級建築士の資格を取得しました。いまでは3人の設計士を抱えています。
  3. 「材木屋として」 山から原木で仕入れて、それを余すところなく使い回しができるように細目をストックしています。3000平米の敷地には、追っ掛け大栓のプレカットも可能な工場を併設しています。外構も木でつくり、家具や建具も手づくりし、表札も作ります。
持井さんの写真
持井貞城氏

 ここで持井さんの紹介をします。貧しい田舎の大工の長男として生まれ、大工を継ぐことに何の疑問を持たずに、高校を卒業すると親父の下で修業に入り、昔の徒弟制度の下で仕事を覚えました。昭和47年に自宅を建て、坪20万円の家が一年後には40万円になるといういわゆる狂乱物価の時代を経験しました。ドンブリ勘定ではいけない、見積もり明細などもつくり材料管理をしないとやっていけない時代に勉強しました。

 「おかあさんがつくるおむすびもコンビニのつくるおむすびもあるけど、人にしかつくれない心の充足が持てるような家づくりを今後もやっていければ、それが永続のポイントだと思っております」そのように持井さんは結ばれました。



Midori Kitajima