近山スクール東京ニュースNo20

2009年1月14日 近山スクール東京
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共催:芝浦工大オープンテクノカレッジ

12月6日 第3回講座「人体が感じる快適さって何だろう」の報告


宿谷先生の写真
宿谷昌則教授
宿谷 昌則 武蔵工業大学教授

 これからの建築は環境に配慮しながらも、かつ快適であることが求められます。近山スクール東京2008の第3回講座は、武蔵工業大学環境情報学部の宿谷昌則教授により「人体が感じる快適さって何だろう」をテーマに行われました。

第1講 温熱環境の実験


 講座の前半は受講者が6つのグループに分かれて、ペットボトルと白熱電球を使った建築の温熱環境に関する実験を行いました。断熱、蓄熱、日よけ、通風という建築的な工夫が、室内の温熱環境にどのような影響を与えるのかということを、ペットボトルを使った簡単な模型で実験しました。実験終了後、それぞれのグループでディスカッションして考察をまとめて発表しました。そこで得られた結果や疑問について宿谷教授が解説を加えるという形で進められました。

実験風景
実験風景


発表の様子
発表の様子


 実験の様子をビデオで公開しております。本ウェブサイトの「資料室」から「ビデオライブラリ」を選択してください。

http://tokyo.school.chikayama.com/library/video/home_jp.html

第2講 空気温度・湿度・放射の変化と快適な温熱環境について


 宿谷教授によれば、熱環境を考える上で大切なことは、実は感じる側のからだのことを理解することだそうです。また、エネルギー問題を解く上でカギとなるエクセルギーという科学的な概念でからだのことを読み解くと、どのような熱環境がからだにとって心地よいのかが見えてくるそうです。このあたりのことを、ここ数ヶ月で分かってきた新しい結果を交えて説明していただきました。

◆ 環境の入れ子構造
環境の入れ子構造
 宇宙も巨大な環境で、その中に地球環境があり、地域環境、都市環境、建築環境、人のからだ、というように環境は入れ子構造をしているという話です。地球や地域の環境、人のからだは自然物ですが、都市や建築は人工物であり、環境の入れ子構造の中で自然物の間に挟まれていることが重要です。

◆ 熱の振る舞い
 太陽の発熱密度と人発熱密度を比べると実は人の方が高いのだそうです。もちろん、太陽の方が温度が高いのは間違いないですが、人は質量に対する表面積の割合が大きいために熱がどんどん奪われているのです。そんな面白い話も交えながら、放射、対流、蒸発、伝導という熱の振る舞いについて説明されました。

◆ 技術のかたち・かた(パッシブ・アクティブ)
 パッシブとアクティブという視点で技術を分類することができますが、この視点は船に例えると良く分かります。パッシブ型技術はヨットでアクティブ型技術はモーターボートです。モーターボートは石油を燃料にエンジンを回して自由自在に移動することができる技術ですが、ヨットは本来は抵抗でしかない向かい風でさえも巧みに利用して前進することができるという技術です。技術の根本にある思想的な違いがあります。
 どちらがすぐれているという問題ではなく、現代技術の問題はあまりにアクティブ型の技術に頼りすぎてしまい、これまで長く培われてきたパッシブ型の技術を簡単に捨ててしまったという点にあります。
 環境問題はからだの問題であると考え、これをエクセルギーで整理するという研究をやってきて、結論として行き着いたのは次の2点です。

  • パッシブ型技術が建築環境の基本をつくる
  • パッシブ型技術を活かすアクティブ型技術を


◆ からだから考える
ヒトはどれか分かりますか
  ヒトを含む動物(ニワトリ、ブタ、ウシ、ウサギ)の胎児のスケッチを見ると、どれがヒトなのか全く判別がつきません。ヒトも他の動物も体温の調節の基本的な仕組みは全く同じなのですが、このスケッチはそうした生命維持の基本的な機構が、どの動物も大差ないことを示しています。

◆ からだの延長としての建築環境
 神経は体中頭の先から足の指先まで張り巡らされていますが、その先に何があるかというと、人生の90%をそこで過ごす建築環境があります。その建築環境から光や熱などのかさまざまな情報を受け取って、明るいとかまぶしいとか暗いとか、熱いとか涼しいとか寒いとか、そういうことを感じているのです。ですから、からだの延長線上に建築環境があるという考え方ができます。

◆ 建築環境が影響するからだの働き
 また、からだは常に周りの環境(建築環境)からの影響を受けています。分かりやすい例に体内時計があります。赤ちゃんの睡眠のリズムは生まれてから半年かけて24時間になってゆきます。生まれたばかりのときは月の重力の影響を受けたリズムになっていますが、その後、昼と夜が24時間で繰り返す光のリズムを受け続けることによって、24時間の睡眠リズムに近づいていきます。
 夜に過剰な照明をすることの問題点は、省エネルギーの問題だけでなく、生物の基本的なリズムを壊しているという問題でもあるのです。快適と便利のために技術を開発して使っているのですが、知らないところ、意識が及ばないところで、実はおかしなことをやっているという一例です。

◆ エクセルギーで読み解く
人体のエクセルギー消費
 人間のからだがどれくらいのエクセルギー(注1)を消費するのか、室内の環境条件とどのような関係があるのかを調べてみると、人間が快適と感じる環境条件というのは、からだのエクセルギー消費が一番小さくなるあたりであるということが分かりました。
 冬に暖房をする場合、エクセルギー消費が一番小さくなるのは周壁の温度が25℃くらいで、空気温度が18℃くらいの場合です。冬、空気が冷たい日に窓際でポカポカと日光が差し込むような状況に近いです。エクセルギー消費が少ないということは、生物の生存環境として適していると考えられますから、私たちのからだはそのような環境を快適と感じるようにできているというふうに考えることもできます。

 また最近になって分かってきたのですが、夏の場合は、周壁の温度が空気温度より少し低くて、風速0.4m/秒程度(平均)の風があるあたりでからだのエクセルギー消費が一番小さくなるということが分かってきました。開口部をきちんととって通風を確保し、外部で日よけをして周壁の温度を上げないような工夫が大切であることが分かります。また、夏は特に植物の働きが効果的です。ただ日射をさえぎるだけでなく、蒸散によって温度を下げることによって放射の調整をすることができるのです。

(注1)詳しくは宿谷先生の著作などを参考にしてください。


Midori Kitajima