近山スクール東京ニュースNo15

2008年 3月10日 近山スクール東京
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2008年3月23日 第2講座の報告を追記

2月9日第5回講座の報告


第1講座 「からだから、建築環境、地球環境へ」
─ からだ・建築・地球をつないで考えよう ─ 講師 宿谷昌則氏


 人生80年とすると、80〜90%は建物の中で暮らしていることになり、建築空間は人にとって最も身近な環境だといえます。この当たり前のことが、建築の専門家も一般の人も意外と気づいていなかったと宿谷昌則教授は述べました。そしてそのことを抜きにして地球環境問題が論じられがちですが、それはちょっと違うのではないでしょうかというところから始まった、実験も交えた興味深く、しかも分りやすい講演が行なわれました。概要を以下に報告します。

1.環境の入れ子構造


図1 環境の入れ子構造
 人を取り囲んでいる空間を環境といいます。人の周りに建築環境があり、さらにその外側には都市や地域環境があり、地域環境を大きくしていくと地球環境があって、さらにその外側には宇宙環境が拡がります。このように環境は「入れ子構造」をなしています(図1)。


図2 様々なものの温度
 いちばん身近な建築環境を、温度という概念でとらえてみましょう。この教室の天井や床、それから手のひら、そして屋外の空などの温度がどのくらいかを想像してみてください。(2分ほど後に)放射温度計で実際に測定した結果はこのようになります(図2)。
 温度のあるものは必ず熱放射を出しています。蛍光灯とかお日様の光は可視光といって目に見えますが、これらも元を正せば熱放射です。これらは私たちの目が感じるような特殊な性質を持っているのです。私たちの皮膚で熱いとか冷たいとかを感じることはできても、目で直接感じることはできない熱放射でも、放射温度計と呼ばれる測定器を用いれば実際に測ることができます。センサーが受け取る熱放射の量が大きければ、その物体の温度は高く、低ければ温度は低いということになります。


写真 実験の様子
 温度とは何かを理解するために簡単な実験をしましょう(写真)。ガラス製のストローの先でゼリーの一片を吸い取り、これを蓋とみなしてフラスコを両手で握って、内部の空気を暖めるとゼリーの蓋が上がります。今度は手の代わりに冷却スプレーでフラスコの表面を冷却すると、ゼリーの蓋は落ちます。フラスコの中の空気は一寸温まめるだけでも膨張し、冷やすと直ちに縮むことが分かります。このフラスコ内部にある空気の温度をどんどん下げていって、−50℃、−150℃としていけば、最後には空気は縮んで体積がなくなってしまいます。このような体積がゼロになるような温度を絶対零度と言います。これは-273℃です。この絶対零度より高い物体は必ず熱放射を出しています。温度が高くなっていくと、どんどん熱放射を出します。私たちは熱放射を出す物体に囲まれて暮らしていますし、私たちのからだも熱放射を周囲に絶えず放っています。
 人を取り囲む環境の中で宇宙の温度は−270℃、地球表面の平均温度は15℃、人は37℃、太陽は5700℃です。こうしてみると、人のからだの温度を適正なところに保つためには、建築(=シェルター)でつくられた環境がないと冬は寒いし夏は暑くて暮らせません。シェルター内部の環境温度は体温より低くないといけませんが、低すぎると寒く、高すぎると暑い。そこで温熱環境のデザインが重要になってくるわけです。

2. 熱の振る舞い

 太陽も人のからだも発熱しています。太陽は当然のことですが、発熱の総量がたいへんに大きいのですが、その発熱密度を計算してみると、実は人のからだの発熱密度の方が大きいことがわかります。人の発熱密度は太陽より約1万倍大きいので、放熱をしないと37℃を保つことができません。その一方で、その発熱密度を保つためには、ご飯を(日に3回ぐらいのペースで)食べる必要があります。食べ物のエネルギー(正確には後述するエクセルギー)を入れつつ放熱し続けることで、からだの全体を維持しているのです。

図3 からだの放熱の経路
 放熱の経路は4つ(図3)あります。放射・対流・伝導・蒸発の4つです。
 壁や窓・床・からだからはいずれもその温度に応じた熱放射が出ています。からだが放射をたくさん受ければ温かさを感じ、少しの放射しか受けなければ、からだから放射熱がたくさん出てしまいますから寒さを感じることになります。
 胸元や腕のところを扇ぐと、冷たさを感じますが、これは対流という現象によります。
 金属は熱を伝えやすい物質で、手の平で触ると冷たく感じ、熱を伝えにくい発泡スチロールは触ると温かく感じます。ですから、発泡スチロールのような材料は断熱材として利用できるわけです。断熱材の中には気泡がたくさんあります。空気は動かなければ熱を伝えにくいのです。
 湯上りに扇風機で風をからだにあてると、涼しく感じます。これは先ほどの対流に加えて、蒸発が盛んに行なわれるからです。夏の暑いときにきちんと汗がかけて、しかも汗がちゃんと蒸発する。蒸発も熱の振る舞いの一つとしてとても重要なわけです。
 このように、身近な環境の中で絶えず起きている熱の振る舞いを意識的に見てみると、いろいろ面白いことが読めてきます。

3. パッシブ型とアクティブ型の技術

 建築環境を支える技術にはパッシブ型とアクティブ型の二つがあります。パッシブ型の技術は、地域性があります。日本の茅葺き民家とギリシャの日干し煉瓦を積み上げた表面を白く塗った民家はすぐに見分けがつきます。それは地域の特徴が現われているかに他なりません。現代人と同じ骨格をもっている人類が現れて約5万年と言われていますが、これだけの時間をかけて築かれてきたのがパッシブ型の技術です。日本の木造住宅の技術もその一つと考えられます。この技術の継承がこの僅か100年ほどの間にほとんど断たれそうになっているのは問題です。それではいけない、何とか繋いでいこうというのが近山スクールの活動と理解しています。
 アクティブ型の技術は、石炭・石油・天然ガス・原子核燃料を利用して動力をつくり、この動力を利用するものです。照明でも暖房でも冷房でも、私たちの周囲にある設備機器を見れば、そのことがよくわかると思います。ここ豊洲にある高層建築も、アクティブ型技術の発達のおかげで実現しています。
 アクティブ型の技術ばかりにたよって建築内部の環境をつくると、建築そのものも、またそれらが集まって構成される都市環境にも、地域の特徴が現われなくなってきます。それでは面白くないですね。ですから、もう一度パッシブ型の技術を見直そう、もう一度アクティブ型の技術のあり方を見直そうというのがここ10年とか15年の傾向だと思います。この傾向は、これからもっと強くなるだろうと思いますし、地球環境問題をきっかけにして、私たちが考え直さなくてはならないのとはそういうことだろうと、少なくとも私は認識しています。
 今までのアクティブ型の技術というのはパッシブ型の技術をむしろ潰してしまう方向で開発されました。これからは、パッシブ型の技術のよさをきちんと引き出せるようなアクティブ技術をつくっていかなくてはならないでしょう。パッシブ型の技術をあまりにも安易に捨てすぎて、アクティブ型の技術に頼りすぎてしまったことが地球環境問題の大きな一因だとも言えるように思います。

4. 人のからだから考える


図4 からだと建築環境
 私たち人のからだはみな1個の受精卵から始まります。1個の受精卵が2個になり4個になり、8個、16個・・・と、細胞分裂を繰り返して細胞群の大きな塊ができていき、一つのひとつの細胞が担う役割がだんだん決まっていって、やがて子供のからだになり、大人のからだになっていくのです。
 発生生物学や解剖学を少し勉強してみると、細胞群がある段階になると、ある細胞は目になっていく、また別の細胞は腕になっていく・・・というプロセスのあることがわかります。このような発生メカニズムの全体をみると、大雑把に言って、まずは肛門から口に到る管ができ、管の内側に位置する細胞群は主として内臓に、管の外側に位置する細胞群は主として脳を含む神経系と皮膚になっていくことがわかります。内蔵の全体を指して臓性系器官、骨と筋肉そして神経系と皮膚の全体を指して体性系器官といいます。私たちの五感はまさにこの体性系器官によっています。こうして見ると、建築環境はまさに人のからだの延長として存在していることがわかります(図4)。
 建築環境が人のからだに影響を与えていることを示す一例を、赤ちゃんが生活リズムをつくっていくプロセスのなかに見ることができます。胎児は10ヶ月の間、お母さんのお腹の中にいますが、その間に潮の満ち干に似た体内時計をつくり、生まれた後の約半年をかけて、夜は寝て昼は起きているという生活リズムをつくっていきます。これは、日の光が建物の窓から入ってくるからです。
 日の光は夕焼けを除けば白色です。一方、夕焼けの光や薪やろうそくが燃えているときの光は赤っぽい色です。白っぽい光は興奮性のホルモン物質を、赤っぽい光は興奮を抑制する物質を分泌させやすくします。ですから、夜はどちらかというと、赤っぽい光を浴びるのがよいと考えられます。このように、照明もからだとの関係でそのあり方を考えることが大切です。
 同じようなことは冬の暖房や夏の冷房でも言えます。夏のことを考えると、汗がかけて、しかも気持ちよく過ごせるような建築環境づくりが大切だと思います。これまでの研究で、そう思うようになりました。一つの例を用いて説明しましょう。
 温度は高めで湿度は低めの部屋を用意して、その部屋を被験者の人たちに体験してもらいます。そうしたところ、汗がかけるためにあまり暑さを感じないで済んでしまう人と、汗がかけないために暑さを感じる人とがいることに気づきました。汗をかきにくい人は全般的に皮膚の温度が高く、汗がかける人は皮膚の温度が低めです。汗のかけない人は自宅でも仕事場でもとにかくエアコン冷房のあるところで過ごすことが多い、汗をかける人の方はエアコン冷房が好きでなく、できる限り避けて過ごすようにしているということでした。私たちは、汗がかけないほうの人を受動タイプ、汗がうまくかけるほうの人を能動タイプと呼ぶことにしました。
 わたしたち人は、前に述べましたように発熱密度がたいへんに大きいので、夏に汗をかけないというのは決定的にまずいと思います。これまでの空気を冷やし除湿する方式の冷房はいま一度見直してみる必要があると思うわけです。

5. 冷房と暖房をエクセルギーで読み解く


図5 同じエネルギーでもエクセルギーは違う
 エネルギー問題というときの“エネルギー”は実はエクセルギーのことです。例えば20リットルの水を40℃に温めても、5リットルの水を100℃に温めても、加えなくてはならない熱エネルギーの量は同じで1674kJという値になります。
 40℃のほうに手を入れると気持ちいいですが、100℃のほうは手を入れたら大火傷をするでしょう。これほど起き得る現象が違うのに熱エネルギーは誰が計算しても1674kJになります。エクセルギーを計算すると、100℃のほうが3.5倍大きい値になります(図5)。これは起き得る現象と辻褄が合います。そういうわけで、エクセルギーはいわゆるエネルギー問題を議論するに際して重要な概念だというわけです。テレビや新聞などでエネルギー問題や地球環境問題の報道があるとき、“エネルギー消費”とか“省エネルギー”という言葉が盛んに使われますが、厳密に言うと、舌足らずです。
 エネルギー概念の重要なところは、「エネルギーは何も無いところから産み出すことができないですし、その逆に独りでに消えてなくなってしまうことも無い」ことで、これを「エネルギー保存の法則」といいます。
 消費というのは、漢字を見るとわかるように“費やして消えること”を示していて、保存、すなわち“保たれて存在すること”とはまったく逆のことです。一方ではエネルギー保存といい、また一方ではエネルギー消費というのは、本当はわかりにくいことだと思うのです。消費ということを定量的に説明できるエクセルギーの概念をきちんと使っていこう・・・というのが私たちの取っている立場です。
 自然エネルギーの利用技術とか省エネルギー技術というと、とかく電気や機械の設備機器のことだと思われがちで、機器の効率がよくなったり、新しいエネルギー源を利用できる機器が開発されたりしたら、エネルギー問題や環境問題はそれで解決されるのではないか。何とはなしにそのような気がしている人は少なくないかもしれません。私もだいぶ昔にはそんな気がしていたことがあります。
 しかし、エクセルギー研究の進展のおかげで、そういうことは有り得ないことが分かってきました。例えば暖房の例で言いますと、暖房用のボイラーだけに注目して、その効率を上げても駄目で、まずは窓ガラスや壁の断熱性を良くすることが重要です。建物側の解決と、それに整合する設備機器の改良の双方があって、はじめて暖房システムの全体がうまく働くのだということです。先ほどもお話したように、パッシブ型の技術が基本であって、それに整合するようなアクティブ型の技術をつくることが大切なのです。
 エクセルギーの収支は人のからだについても計算できるようになってきました。今日の話の最初のほうで、天井や壁などの温度を放射温度計で実際に測ってみましたが、からだが温かいとか寒いと感じるのは、大雑把に言うと空気温度と天井や床・壁などの周壁平均温度が半分ずつ影響してのことです。からだの中でどれくらいエクセルギーが消費されるかも同様です。空気も周壁も温度が低ければ寒く感じるわけですが、その場合はしエクセルギー消費も大きくなり、双方ともに温度が高ければエクセルギー消費は小さめになります。エクセルギー消費が最も小さくなるのはどんな条件かを見ると、冬について言うと、空気温度が18℃ぐらいで周壁平均温度が24℃くらいという環境になります。
 この結果は、建物の断熱が大切なことを改めて認識させてくれますし、先ほどお話したパッシブ型の技術に整合するアクティブ型の技術の必要性をも認識させてくれます。言い換えると、壁や窓の断熱性向上は室内側の表面温度を上げる役割を果たしくれますが、これは、壁や窓ガラスがパネルヒーターの役割を果たしてくれるようになることであって、そういうことならば、空気を暖めるのではなく、熱放射の振る舞いを主として利用するアクティブ型の技術が重要なはずだということです。

 環境が入れ子構造になっていること、そして建築環境はひとのからだの延長なのだというところから出発して、いろいろお話をしてきました。生き物の一つとして人のからだが長い時間をかけて獲得してきた、光や熱の振る舞いに対する環境適応能力を無理なく引き出させるような建築環境デザインが求められるのだと思います。 以上の話がみなさんのお仕事に何がしかの参考になれば幸いです。ありがとうございました。

参考文献

[1] 宿谷昌則著:「自然共生建築を求めて」、鹿島出版会、1999年。
[2] 宿谷昌則編著:「エクセルギーと環境の理論―流れ・循環のデザインとは―」、北斗出版、2004年


第2講座 「パッシブな工夫で快適な住居をつくる実例」


その1 夏編―先人から学んだ夏の工夫・置き屋根― 講師 金田正夫氏


 エアコンの無かった時代は、機械に頼ることができないので、自然の特性を取り入れた快適環境つくりをたくみに行ってきました。今回は何百年にもわたって先人たちが試行錯誤しながらたどり着いてきた技術レベルや文化レベルを、夏に絞って民家の実測から明らかにし、それを現代の住宅に応用し検証した実例を金田氏は次のように紹介されました。

■ 民家の実測から分かったこと

 群馬県六合村(くにむら)赤岩集落の中にある江戸後期(1806年)につくられた、湯本家の建物を実測(2000.08.01)しました。この建物は土蔵造りですが最初から住まいとして建てられました。壁は20cm、屋根は10cmの厚さの土でぐるっとぬり込まれたような家です。図のように土屋根の上にもうひとつの屋根が載っています。このような屋根を「置き屋根」と呼びます。夏の最中センサーをつけて測った結果、置き屋根53℃、土屋根33℃、室内のロフトは28℃でした。置き屋根が夏の陽射しを20℃も下げる効果のあることはあまり知られていません。エアコンで5℃下げようとすると大量の電気が必要となります。電気の無い時代、自然の法則をたくみに取り入れて、高温多湿という日本の夏を少しでも快適に暮らすために工夫がされていることに驚かされました。

■ 置き屋根効果の活用事例

 次に、都心の狭小地に建つ住居の改修の際に、置き屋根によって夏の遮熱をした事例を紹介します。周りに中層ビルが立ち並び、日照も不十分な環境にある中で移り住むのでなく、長く住み慣れたところで、改修して住み続けることになりました。そこで生活の場を2階に移し屋根からの明かりを取り入れ天井を高くしました。夏の日射を遮るため、置き屋根を既存の屋根の上に乗せました。施工後測定した結果、外気温33℃のとき置き屋根表面の温度が55℃、直下の屋根表面が37℃、2階の室温が33℃でした。置き屋根によって20℃ほどの遮熱効果がでました。エアコンは設置してありますが、夏の2〜3日の使用で済みました。

その2 冬編―床下放熱暖房の快適さ― 講師 安田滋氏


 一年のうち半分は東京渋谷のアトリエで、半分は群馬嬬恋のアトリエで設計の仕事をしています。寒冷地・嬬恋の厳しい自然の中で暮らしていると薪や太陽熱などの自然エネルギーを利用して暮らすことを身体で覚え、工夫するようになります。これからお話しする床下放熱暖房は少ないエネルギーで快適な室内の温熱空間ができるので寒冷地に住むみなさまには大変喜んでいただいております。今回は床下放熱暖房のつくりかたと室内温度の実測値、その快適な暮らしぶりを紹介しました。

■ 床下放熱暖房の仕組み

 OMソーラーなどにより自然エネルギーの太陽熱も利用できますが、日の当たらない集熱条件が悪い場合はFF式石油ストーブや蓄熱電気暖房機による床下を暖めるやり方があります。土間コンクリートを打ち、さらに下の土壌に熱が伝わるようにすると土壌に熱が蓄熱されます。その蓄熱量が多ければ暖房機を止めても放熱を続けるので朝方まで暖かく上下差の少ない室内温度になります。


 昨年の近山スクールの講義で紹介した北軽井沢の家を最近温度測定しましたので紹介します。この住宅は屋根に100ミリのフェノールホームが外断熱として敷かれています。寒冷地では結露に気をつけなければならないのでフェノールホームの下には気密シートを敷いています。壁は合板による気密で継ぎ目は全部目張りしています。断熱材は50ミリのフェノールホームを外断熱として使用しています。土壌は断熱性と蓄熱性を兼ね備えていますので真冬に暖房をしなくても温度はマイナスにならず、4℃程度を保ちます。床下にはFF式石油ストーブを設置して放熱します。弱運転するとサーモスタット制御されずにわずかなエネルギーで一定して床下を暖め続けます。低温輻射による暖房なので、エネルギー使用量は部屋全体の空気を対流で暖める場合より30%ほど使用するエネルギーを減らすことができ、省エネ効果を発揮します。測定の前日の夕方5時頃からFF式石油ストーブの弱運転を開始、翌日の朝10時頃測定したところ、外気温度が8℃のとき、土間コン表面温度24℃、床表面温度23℃、壁・天井表面温度22℃、室内温度は19℃でした。この家は「東京の家より暖かくて台所の立ち仕事も楽で快適です」と喜んでいただいております。


 栃木県鹿沼の築50年の民家をリフォームしました。リフォームですが床下放熱暖房を試みました。昔からの工法の民家ですから当然断熱材は使っていなく、土壁と瓦でつくられ、建具も隙間だらけの状態でした。暖房は練炭の掘りこたつだけでとても寒い家でした。寒さに震えながら設計打合せしたことを覚えています。床面積が広いため、床下の放熱は蓄熱電気暖房機2台とFF式石油ストーブ1台に頼っています。普段は深夜電力を利用して蓄熱電気暖房機を稼動して放熱します。不足の場合はFF式石油ストーブで放熱をさらに加えます。測定結果は、午後2時頃ですが、外気温度が6℃のとき、土間コン表面温度18℃、床表面温度14℃、壁・天井表面温度12℃、室内温度12℃でした。さらに測定中、FF式石油ストーブを30分間弱運転で稼動して測定すると室内表面温度は16℃まで上がり、断熱していない家ですがさらに快適な室内温熱空間をつくりだすことができました。リフォーム前より「着るものが一枚少なくなり、身体がとても楽です」と喜んでいただいております。

質疑応答


 会場からの質問に金田氏と安田氏に答えてもらいました。主な内容については以下の通りです。

(金田氏)  今日宿谷先生の話で、壁、天井、床の表面温度が20℃前後というのが効果的だと聞き、安田さんがその通りの値になっているのはすごいと思いました。私の場合はいつも手探りではありますが、民家から多くを学び取ってきました。民家が持っていた温熱環境への工夫は現代でも大事な役割を担っているととらえています。温度センサーを使って実測し、蓄熱の効果があることは分かってきました。そのシステムを現代に何処まで応用できたかが課題です。

(金田氏への質問)  置き屋根では屋根の通気になっていますが、その効果について聞かせてほしい。

(金田氏)  宿谷先生も言われていたように外側にある置き屋根がシェルターの役割をして、置き屋根の下の通気層が効果をあげる大事なポイントになっていると思います。昔なら親方が弟子に伝承し、また伝承することによってより良いものが残っていったのですが、この50年はそれもなくなってきていますから、毎回が手探りです。



(安田氏)  断熱材の使い方についてお話いたします。これまで断熱はプラスチック系の断熱材を外断熱にして、室内側に合板で気密をとっていました。これからはより自然な材料で合板など一切使わない家づくりをしたいと思っています。予算とのからみもありますが、まずは性能をつくるということが基本なのでそれを実践してきたつもりです。ただ今設計中の軽井沢の家は自然素材であるセルローズファイバーの断熱材を厚く充填して熱損失量を減らし、暖房エネルギー効率をよりよくしてレベルアップしています。さらに土の蓄熱性や断熱性を積極的に生かした建物にも魅力があるのでぜひそのような家も設計してみたいと思っています。

(安田氏への質問)  床にカラマツを使用しているとのことですが、床下暖房でも使えるのですか。

(安田氏)  カラマツの厚さは15もしくは30ミリです。床の表面温度が24℃くらいにしかならないので、反りや狂いはほとんどありません。床暖房といっても冬でも裸足にはなれるけれども、ヒヤッとしない程度です。

(安田氏への質問)  床下の空気が室内にも流れるようにするのですか。

(安田氏)  そうです。基礎断熱した床下の空気と1階の空気が一体になることが重要なポイントです。十分に空気流通するために床には2000平方センチ(45センチ角)以上のスリットが必要です。さらに、天井の高いところに15センチφ位の煙突をつくると動力を使わずに換気が可能です。内外の温度差で空気が上方に流れるようになり、換気ができるのです。その方法を「パッシブ換気」と呼んでいます。

Midori Kitajima