近山スクール東京ニュースNo14

2008年 2月19日 近山スクール東京
177-003 東京都練馬区富士見台3-24-10 (事務局)
tel:03-5971-2309 / fax:03-5971-2329
E-mail:tokyo.scool@chikayama.com / URL:http://tokyo.school.chikayama.com
共催:芝浦工大オープンテクノカレッジ/財団法人 日本住宅・木材技術センター

1月19日第4回講座の報告


第1講座 「木造住宅の防火を考える」 講師 安井 昇氏


 安井昇講師は、木造の防火を研究している早稲田大学長谷見研究室に所属しています。講演は最先端の内容を取り上げたものです。専門は木造をいかに燃えない建物にするかではなく、伝統的な柱・梁・板だけでできている、言ってみれば燃える木造をどうやって安全にするかということです。真壁はどのくらい防火性能があるかなどを分かりやすく、そして、明日からでもすぐに使えて役立つ内容でした。

■ 木造はどのように燃えるか

 出火の原因の一位は、放火と放火の疑いが24%で、次がタバコ10%、コンロ10%の順になっています(平成16年)。日本の火事は人に火をつけられてしまうことが多く、いかに早く見つけて、早く消すかです。そして延焼させないことです。火災初期では消火器で消すことができますが、火災進展期になると消防の力に頼る以外にありません。次の火災最盛期ではフラッシュオーバーとなり消防でも容易に消せず、市街地火災にならないようにします。1戸だけが燃えるのは仕方が無いとしても延焼して市街地火災を起こさないようにどう防ぐかが課題です。
 ものが燃えるには、もえくさ(可燃物)と酸素と熱エネルギーの3つが揃わないと燃焼は起こりません。
 日本の建物は、建物の防火性能によって分類すると、木造、防火構造建築物、準防火建築、耐火建築があり、建物はこのいずれかに分類されます。
 木造の建物で燃えるものは、家の中に持ち込んでいる家具とかクロスなど内装などの収納可燃物と柱・梁などの構造体です。一般的な木造住宅では、収納可燃物は木材に換算すると1平米当たり30〜50kg位で、構造体は80kg位です。防火性能の低い木造では、収納可燃物と構造体が同時に燃えます。すなわち、RCなどの3倍の可燃物が一気に燃えることになります。ここが一番の問題点で、防火性能のない木造は8分から10分で大炎上します。そうすると建物全体を包む大きな炎となり、周辺に大きな放射熱を出すので、お隣に延焼する可能性が増します。

■ 内装制限と構造体の規制

 ところで、建築基準法では、防火上どのような概念で、建物の防火性能を規制しているのでしょうか。
 法令上は、大きく、建物内部の内装制限と、構造体の防耐火性能を規制しているものの二つに分けられます。内装の不燃化というのは、火災初期から火災最盛期までどれだけの時間がとれるか。この時間を長く取れれば、居住者が安全に避難し、消防活動がやりやすい。内装の不燃化はそのために行うのです。ちなみに、住宅では、子供部屋や寝室などは室内の収納可燃物が比較的多いため、たとえ内装を不燃化してもフラッシュオーバーが起こる可能性は高いです。すなわち、出火室では、出火から約2分で逃げないと8分くらいまでにはフラッシュオーバーして火煙に包まれる可能性が高く、初期消火に失敗したらできるだけ早く避難することが重要です。
 もうひとつ、法令では建物本体の構造について規制しています。防火構造性能には(1)非損傷性(崩壊しない)(2)遮熱性(裏面に熱を伝えない)(3)遮炎性(隣に炎を出さない)の3つの性能があります。この構造躯体が崩壊しない、熱を伝えない、炎を出さないという性能を有す建物をつくっていくことにより、街全体として、市街地火災を出さないという性能を達成しているのです。

■ 木造の防火性能の再評価

 2000年6月の改正基準法施行により、防火法令は性能規定に向けて大改正されました。ひとつの例としては、耐火性能の要求さえ確保すれば、木造で耐火建築が造れることになりました。それまでは、木造では耐火建築をつくれませんでした。性能規定化から約8年がたちましたが、その間、木造の耐火建築物、伝統木造の再評価が活発に行われてきています。

 伝統木造工法の再評価では、研究成果をもとに、2004年7月に伝統的な土壁や木材の木裏の京町家様式の仕様が告示化され、既存の仕様の延長上で建物が新築できるようになりました。

 真壁の防火性能の特徴は、火災時に柱が燃焼し、断面がどんどん減り、建物の荷重を背負っているため支えきれなくなるとボキッと折れ、非損傷性が損なわれます。30分間折れなければ防火構造と位置づけられています。105mm角以上あれば30分以上の性能を確保する仕様が明らかになっています。後は土壁の部分で熱が裏面に伝わらないことです。遮熱性、すなわち、熱をさえぎる性能は、土壁の厚みでコントロールします。土塗り厚40mm以上あれば、30分の遮熱性は確保できます。このように柱の非損傷性と壁の遮熱性を30分クリアーすれば防火構造の性能を確保できます。

 軒裏について、京都の町家は垂木と野地板と面戸板が外に出ていて建物の意匠となっています。建築基準法で軒天を張ることになると京都の町並みは完全に失われてしまいます。軒裏は建物の崩壊につながる鉛直荷重を受けていません。すなわち、軒裏が壊れても建物全体に影響しないので、要求される防火性能は遮熱性と遮炎性です。隣が火事になったとき軒裏を介して小屋裏に火が入って建物全体が大炎上しないようにしなければなりません。面戸板と野地板を厚くして延焼経路を断てばそれだけで性能を確保することができます。

 外壁開口部のサッシの外側に格子や木製ルーバーを設けるとサッシの防火性能に悪影響を与えるのでしょうか。延焼ライン内の外壁開口部に要求される防火性能は20分の遮炎性です。そこで格子の有り無しの実験をしました。20分間燃やすと、格子のある方は、講師が燃え落ちる10分過ぎまでは、室内に入ってくる熱量が減ります。細い格子ですが、外側からしか加熱されなければ、外側から順番に燃え、最後まで熱をさえぎってくれます。木材は適度な外部加熱がないと燃え続けられないのです。

 スギ板などで構成する落とし込み工法というのがあります。柱と柱の間に板をどんどん落としこんでいく工法です。この工法について、NPO木の建築フォラムで、壁倍率の大臣認定を2005年に取得しています。2.2倍です。これを防火構造にしたいという要望にこたえて実験をしました。構造的には落とし込み板に直交して立て木摺板を釘で止めて横からの地震力に対して倍率をとり、さらに防火構造にする。そうすれば準防火地域でつくれます。
 柱120角以上、落とし込み厚30mm以上、立木摺板24mm厚、板際板21×45という条件だけの木材だけで、防火構造の30分の非損傷性、遮熱性を確保できました。板壁の場合、板で防火性能を確保しているため、抜け節、死節が弱点となります。その部分をしっかり節補修する必要があります。板の本実部分に節があると、欠ける可能性があるので、その部分も弱点となります。材料の品質管理が重要になってきます。

以上の話は、明日からでも使えるもので、伝統的な建物が街中に建てられるように法的にも整備されてきたことと木造の可能性は広がっていることが確信の持てるお話でした。

第2講座 「左官の技術を一般の住宅に使うには―小舞土壁のワークショップ―」 講師 金田正夫氏 勝又久治氏




■ 勝俣氏による小舞土壁の実演

 はじめに実験室に移動して、左官職人の勝又久治氏の実演を見学しました。実演のために間渡し竹と小舞竹を組んだ畳一畳くらいのサンプルに、すでに荒木田と藁すさを混ぜて練った土が用意されて荒壁塗りと裏側の返し塗りを、受講者が熱心に見学している中で、勝又さんが40年のベテランの技を披露してくれました。実際に受講者も実演に数人参加して、こて板の上に壁土をこてですくい上げて塗ってみました。






 第二講の後半は金田正夫氏による講演でした。金田氏は土壁の歴史とワークショップの役割について次のように熱くかたりました。



■ 数百年はぐくまれてきた構法

 小舞土壁の歴史は鎌倉時代の絵巻物に登場するくらい古く、数百年もの間日本の気候風土にはぐくまれてきました。がんばってきた小舞土壁もここ50年で職人が減り、完全に土壁は消えたわけではありませんが、伝承することが困難になっています。
 小舞土壁の技術を持った多くの職人が太平洋戦争で失われたことや高度経経済成長ではさらに使い捨ての時代、利益優先の企業経済の荒波に職人の技術は流されていきました。こうして左官の技術の伝承が失われ、住宅も変化して環境と断絶した中での人間の暮らしに変わってきました。

■ たくさん優れた性能をそなえ持つ小舞土壁

 大多数の人が不快に感じる、夏高温多湿の日本の気候は、家屋の湿気対策なしには暮らせませんでした。むかしの人はまず家屋の湿気対策を自然の摂理の中で小舞土壁という方法でやってきました。除湿機やエアコンの無いとき、この方法が何百年にわたって受け継がれてきました。土壁に使われる粘土質の土は、実験によって優れた調湿能力を持っていることが分かり、注目しました。その他、防火性能、遮熱性能、断熱性能、蓄熱性能、耐震性能などにも優れていることも分かりました。これだけの性能を兼ね備えた小舞土壁の構法と材料は他にはない。そう金田氏が認識し始めるようになってまだ数年です。
 この優れた小舞土壁を庶民の住宅に取り入れるすべは無いものかと、試行錯誤の末たどり着いたのがワークショップという方法でした。

■ ワークショップの役割

(1)手間仕事
 一軒の家を土壁でつくると高いものになり、実現不可能になる。これを自分たちでセルフビルドできないかということがきっかけでした。ワークショップという考えの中にはローコストでできるのではという期待がありました。材料費は新建材より安い。しかし、圧倒的に手間がかかります。手間を惜しまなかった時代と手間をかけることを嫌う時代の今、どうするかという問題です。ワークショップは、職人の日当は要らないかわりに多くの人の手が必要になります。多くの人の手は、人と人との絆が無いとできませんので、そういう意味では決してローコストにはなりません。しかし、その家に長く住み続ける人にとっては、人による絆がお金に換えることはできない宝物として残ります。
(2)主役はあくまでも住み手です。長く住む家を手に入れるのは住み手です。まず住み手にワークショップのことを理解してもらうことです。
(3)設計者と職人は、技術の伝承と住み手を補佐する立場です。左官職人が土壁の仕上げをプロとしてバトンタッチしていくこともできます。荒壁(下塗り)は素人にもできますが、仕上げ中塗りはなかなか難しいのでお金をだしてでも、その部分を専門家が受け持つ意味はあります。専門家の持っている力量は一晩にしてできたものではないところが素晴しいです。
(4)事故と責任
 土壁の作業は足場にのり、みんなの手でやります。それは非常に危険を伴うので、何かあったら人の命は何者にも換えられません。保険に入ることもありますが、適切なアドバイスをできないのが現状です、と作業に伴う問題点を指摘します。
 しかし、技術と手間によって成り立つ世界が伝承されず絶えてしまうことは、またゼロからはじめなければなりません。ワークショップによって伝承されていくなら意味のあることであり、元気が出てきます。

■ 小舞土壁の工程については、金田氏から説明があり、その合間に勝又氏の実演を踏まえたアドバイスがありました。




Midori Kitajima