近山スクール東京ニュースNo12

2007年12月13日 近山スクール東京
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共催:芝浦工大オープンテクノカレッジ/財団法人 日本住宅・木材技術センター

※ 蟹沢先生の講座報告の文章をわかりやすく修正しました。内容の変更はありません。(2007/12/17)


11月17日第2回講座の報告


第1講座 「家づくりと職人」 蟹澤宏剛氏


 なぜ職人につくってもらうのか?
 ここに参加しいている人は、プレハブ住宅にしようとか建売住宅を買おうとか思っている人はいないでしょう。ではなぜ家は職人につくってもらうのか、職人との付き合い方も含めてお話しましょう。
■ 大工さんに依存してきた日本の家づくり


 住宅は受注生産であり、一品生産であるから、現場で優秀な職人につくってもらう方がはるかに合理的です。自動車も試作品は図面無しでつくります。自動車会社では試作品をつくる人のことだけは職人さんと呼んでいます。自動車の試作のプロセスはゼロコンマなんミリ単位ですが、それを機械より正確につくる人のことを職人と言います。また図面が無くてもつくれるのが職人で、家づくりも1戸1戸違うので職人がつくるのが一番効率はいいのです。
 自動車の場合、最近は多品種・少量生産ということが言われていますが、少量というロットは数万台とか数千台の単位で、それは家を1戸建てるのとは違い、大量生産の範囲です。今、建築基準法の改正で問題になっていますが、これまでは建物が完成してから設計図はつくっていました。設計図があって現場でつくるわけではなく、決まっていないところが沢山あって最後に出来上がってから図面をつくっていました。それを竣工図といい、実はそういうシステムだったんです。木造住宅で言うと継ぎ手の詳細まで図面に書いていなくても、現場でつくってしまいます。外国では図面のとおりにつくります。裁判になるから、図面以上のことも図面以下のこともやりません。 日本の職人の偉いところは、図面に描いてあるよりいい物をつくってしまう。この日本の住宅生産システムは、職人を前提として成り立ってきた生産システムであり、これを職人依存型システムといいます。歴史的に日本の住宅づくりを支えてきました。また、悪い言い方をすると設計者はこれにずっと甘えてきました。建築雑誌に載っている有名な建築家の建物は、職人がいなかったらつくれなかったといわれています。詳細図が無くとも建物ができるのが日本の大工型生産システムと呼んでもいいです。伏図と尺杖があれば建具の位置、GL、1階のフロアラインまでできる、一流の大工とは伏図が描けて現場で加工できる大工のことです。問題なのは自称大工も一流も評価があまり変わらないことです。

■ リスクをなくすのは職人の能力

 ものづくりには大量生産と一品生産があります。一品生産というのは請負という民法上の行為で、要は頼まれたものを頼まれた納期で頼まれた金額で受け取った人が満足するものが出来上がればよいのです。請負とは一般的に建築業だと辞書に書いてあります。したがって家づくりは信頼の置ける大工さんに頼まないといけない。途中が見えない分リスクがつきものといわれます。完全一品生産というのは職人の存在なくして成り立ちません。そのリスクをなくすのもまた職人のもてる能力です。
 職人は、スキル(技能)、スピード、モラル(道徳)、モラール (高い認識)、サスティナビリティ(持続性)などを兼ね備えており、プロとして成り立つ所以です。 (サステナビリティについて)家は10年20年住むものですから何かあったときにはすぐに対応に来てくれないと困ります。大事なときにすぐ大工が来てくれる工務店は、大工は社員として働いています。しかし、いま大工を社員として抱えている工務店は非常に少なく、多くの場合、大工は下請けとして働いています。 一日いくらで働いている大工さんにとってちょっと頼まれたからといって簡単にいくことは出来ません。

■ 職人さんとの付き合い方

 芝浦工業大学は数少ない木造住宅を教える大学です。 近山で家を造るというのは、狭い意味では近くの山の木を使うことですが、国産材を使うことや職人も含めて近くの資源を使おうということです。 家づくりの単価を上げずに職人さんの実入りを大きくするには稼働率を上げ、歩掛を上げることです。(1)手待ち、手留まりをなくすこと。一品生産ですが、みんなが違うことをやるのではなく、ある程度標準化する。(2)中途半端な作業はなくす。職人は時給でないので、半日分の作業などをなくす。設計段階から作業は1日単位で考えた仕様にする。(3)大工の仕事をなるべく増やす。システムキッチンなど買ってくるのでなく腕のいい大工さんにつくってもらうとその方が安上がりになります。もうそろそろ近山スタイルの家づくりを皆さんで考えていってもいい時期だと思います。

■ 減り続ける大工

 国勢調査によると1980年に95万人位いた大工が、いよいよ2005年には55万人位までに半減しています。左官は30万人くらいが12、3万人位になっています。とび職も一時増えてまた減っています。建築業全体として職人の数は減る一方です。中でも大工の減り方は尋常ではなく、その上大工が深刻なのは高齢化して2000年では約半分近くが50歳以上です。また新規入職者も殆どなく、これからどんどん高齢化にシフトしていきます。
 ではどうして減るのでしょう。それは簡単なことで、コンビニで働いても大工として働いても賃金はあまりかわらないからです。最近日経ホームビルダーが職種別の賃金の定期的な調査をしています。それによると全国平均で大工は1日17000円です。東京では19500円です。大工には、常用と手間請けというのがあります。常用は日当、手間請けは坪いくらで決めます。大工の手間というのは人工で換算します。プレカットを使って大体4人工ですから1坪つくるのに1人で4日間かかり、坪52000円になりますから4人工では1人1日13000円となります。
 現在首都圏では、新築の場合、1戸建住宅の半分以上が建売住宅です。したがって大工さんも建売で働く人も多く、腕のいい大工さんは建売住宅で数をこなしている人もいます。知り合いの大工さんも子供が独立するまでは建売をやらないと生活していけないといっています。かなりいい大工で1日2万円で1ヶ月21日働いて月42万円です。これから経費のガソリン代と道具代を引くと手取りは月28万円くらいです。さらにそこから保険料や税金を引くと年収500万円です。これはかなりいい方です。
 職人としてうれしいことは工期3ヶ月の仕事が2ヶ月半で上がった時です。半月分稼げることになります。大工を手間受けにすることで能力の高い職人の給料を上げる効果があります。 また、工務店にしてみると大工を社員にすると法定福利費で15%はかかります。常用にすると働いても働かなくとも1日いくらです。工務店としては手間請けにしたほうがその分経費を抑えることができます。

■ 鎌継ぎの強度試験の見学

 講座の後、大学の実験室に移動し鎌継ぎの強度試験を見学しました。




その実験結果について蟹澤宏剛准教授は次のようにコメントしました。

 今日の実験は、鎌継ぎの両肩に5分の目違(めち)がついたものがついていないものに比べてどのくらいの強度が出るのかを確かめました。材にはばらつきがありますが、1割、2割のものから2倍近くまで強度が出ました。長期的に木が乾燥した場合は、ずれがとまりますので、長い目で見ると5分の目違をつけることによってもっと効いてくるのではないかという実験です。大工さんの貴重な時間を買うという話をしましたが、5分の関係が先々どれだけ効いてくるかということです。



第2講座 「大工と考える木造住宅の考え方」 丹呉 明恭氏


 はじめに事務所の全景が映し出されて、講師の丹呉氏の仕事ぶりが紹介された。40年使っている製図版、T定規、30cmの竹のものさしを削って作ったスケール(8種の縮尺ができる)などが整然と所定の場所に置かれていた。いまだに青焼き図面、A1サイズが焼けるキャノン製の青焼き機(山辺事務所から譲り受けたもの)など、1970年以前の方法で図面をつくっている。一緒に仕事をしている大工塾の大工さんの作業も、今はプレカット90%の時代に1980年以前の手刻みの方法ですと説明された。
■ 大工塾の基本テーマ

 1998年から大工塾をやっていますが、そこで何を考えようとしているか。基本的には木や土などの自然素材を使って、地震に強くて長く住み続けることができる木造住宅を造る技術を考えたいということです。それと木造住宅を長く維持管理する仕組みを作りたいということ、それらをトータルに考えようというのが大工塾の基本的な姿勢です。
 では、なぜそのような木造住宅を造りたいのか。それは地球に負荷を与えない、ゴミを出さない、未来にツケを回さないということです。例えば石膏ボードは買う時より、捨てる時の方が、お金がかかりますが、それはどのようなことなのか考えてみると、安く買って先の人にツケをまわす材料だということになります。石綿の問題も同じです。現在の建築を造る技術は、そのような材料を前提に成り立っています。本当にそれで良いのだろうか、造る人間としてそれを認めてしまって良いのだろうかというのが、大工塾の共通の問題意識です。

■ 4つの要素を組み合わせた構造システム

 一般的にどうも木構造は理解できないと思われがちですが、木造住宅をひとつの構造システムとして考えると分かりやすくなります。どのようなシステムかというと、4つの基本的な要素を組み合わせた構造システムです。4つの要素とは、(1)軸組み、(2)耐力壁、(3)床や屋根の水平面、(4)接合部です。構造から木造住宅を考えるときには、この4つの要素とその関係性だけを考えればよい。考える手順は、 (1)木造住宅を1つのモデルとして、(2)そのモデルに外力を加えて、その外力によってそのシステムのどこにどのような力が働くかということを解析する。(3)その解析結果から分かった応力に耐えられるような技術と施工方法を工夫する。(4)技術や施工方法は、実大の試験体を使って加力試験を行って、実際の耐力を確認する、というのが大工塾で行ってきた方法です。

■ 木構造システムの特徴

 木という素材で造るために、木構造システムには大きな特徴があります。
(1)部材の強度にバラツキがある。(2)接合部の耐力が最も小さい。(3)柱通しの軸組みと梁通しの軸組みと二つの架構方法がある。(4)大きな変形性能を持つ。(5)各要素の組み合わせでシステムの耐震性能が決まる。(6)仕上げ材も含めて、システムを構成する。
 地震力に対しては耐力壁で抵抗するので、渡り腮構法のような伝統型の構法であっても、壁倍率と必要壁量の方法で耐震性能を考えます。そのときには次のような関係性を常に考える必要があります。壁倍率の低い壁を使った場合には、耐力壁の数が多くなります。この場合には接合部に働く力は小さく、床の剛性もそんなに必要ありません。これは伝統型のシステムで、込み栓の接合でも可能になります。逆の場合、壁倍率の高い壁をつかった場合には壁量が少なくなるために、接合部の応力が大きくなり金物が必要で、床の剛性も高める必要が生じます。木や自然素材で造る住宅の構造システムは前者の選択をすることになり、その選択の中で、どのようにして大地震に耐えられる構造にするのか、が大きな課題になります。

■ 実験を積み重ねて検証する

 伝統型の住宅をつくっている人は大地震後に傾いた建物を直して使うことができると説明します。しかし本当にできるのでしょうか。重機なども入らない状況で大きく傾いた建物を起こすことができるのか、それでは実験してみようというのが大工塾のやり方です。東洋大学で実験住宅をつくって、1/15まで傾ける引っ張り実験をしました。実験後、住宅は2階の床で3cmの傾きが残っていました。いろんな知恵が大工から出て、室内にサポートを入れてジャッキで押したところすっかり直りました。それで初めて「地震がきたら傾くけれど直せますよ」と確信を持って説明できるようになるのです。ともかく実際に目で見て確認することが造る人間の基本的なスタンスであり、責任のとり方だと思っています。そのために、今まで実験を積み重ねてきたといえます。

■ 未来にツケをまわさない技術体系

 日本の住宅着工戸数の推移を見ると、1972年の190万戸をピークに、現在まで毎年150万戸〜100万戸の住宅が造られてきました。世界的に見ると、日本とアメリカだけがこんなに沢山の住宅を造ってきました。石膏ボードの生産量は1970年頃からどんどん増えてきました。住宅着工戸数と石膏ボードの生産量を重ねて考えると、1970年以降に生産された石膏ボードが日本の住宅の中にストックされていることがわかります。石膏ボードの再資源化率の目標値は2010年で、わずか7%ですから、今後すべて管理型の処分場に捨てられるという状況です。
 日本の産業廃棄物の量は1990年以降約4億トン前後で推移しています。1975年は2億3000トンでした。ここ20年間は産廃の排出量を変えられなかったことになりますが、そこから技術を考える手がかりが得られます。
 技術というのは形ではないと思います。伝統の木造技術というのは込栓や車知や複雑な継ぎ手をつくることが大事なことではなくて、4億トンものゴミを出さなかったというところが大事なことなのです。私たちは、技術を支えている思想を読み取る必要があります。技術は、思想の系統の流れなのだと考えています。手書きの図面や大工が手で刻んでいるところを最初に紹介しましたが、産廃のデータを見ると、このような(職人の)技術の系統と現在の技術の系統は違うものだと思わざるをえません。どういう系統の技術で造ってゆくべきか、産廃のグラフは教えてくれています。われわれが目指す技術は、コストが大きいという問題があります。そのときに比較する技術はゴミを大量に出す技術です。そのコストの差は、未来の人に付けを回さないように、みんなで負担する分が含まれているからです。
 設計事務所や大工や住む人皆で、どのような技術と仕組みで、住宅を造り続けるべきなのか、考える必要を常に感じています。

質疑応答

講師の丹呉氏と蟹澤准教授に対する会場からの質疑を植久運営委員の司会で進めました。

(質問)  渡り腮構法の場合は、落とし込み板は難しくないか。また坪単価は。

(丹呉氏) 板倉構法でやっても壁をどうつくるかということですから。性能的には合っていますし、変形も大丈夫です。大工さんすべてが渡り腮構法でやっているわけではなく基本的なベースにはありますが、大工さんはいろいろ工夫してやっています。
 先ほど坪80万といいましたが、地方へ行けば60万くらいでやらざるを得ないところもあります。今日話したことは僕と大工さんとの共有した原理だと考えてください。

(質問) 6月の法改正による伝統的な建物への影響は?

(丹呉氏)  建築基準法は工業化されている工法をメインにおいているので、われわれの構法はなかなか入りづらいです。できれば東洋大でやった実験結果を確認申請で使えれば、不自由はありますが、やっていけるような気がします。例えばN値計算すれば込栓だけでもうまくいくのです。日本の木造の構法というのは現場で大工さんたちが工夫に工夫を重ねてつってきた構法です。先ほどの実験で何が決めたかというとさし違いの幅が5分だから耐力をだすのですね。その技術はすばらしいと思います。

(蟹澤准教授) (大工塾に対するコメント) 丹呉さんたちの大工塾に対して、偉いなあと思います。ただ職人が大事だというだけでなく、単なる運動としてではなく、大工自身の再生産のための育成のしくみとし、大工の技術・技能を評価するための方法を結び付けてやっていることです。それを渡り腮という構法システムとそれをつくり出す大工さんのシステムを一体化していることは、外から見ていて他でやっていない画期的な取り組みだと思います。

Midori Kitajima